菊川店(リブレ) 「白岩」のOh!ススメ本
- 2016年04月のオススメ本
- キャパの十字架
- 沢木耕太郎/著
- 価格/799円
菊川店(リブレ)
白岩
写真は真実を写しだす。多くの者が写真に対してそんなイメージを持っている
だろう。シャッターという一瞬の光をフィルムに焼き付ける装置が切り取る瞬間は確かにその場においての真実である。が、装置を操る者は間違いなく人間である以上、写真には撮影者自身の意思が写りこむ。
写真のおもしろさはそこにあるし、それは真実という思い込みの恐ろしさでもある。
一枚の世界的に知られた写真がある「崩れ落ちる兵士」。1936年スペイン内戦において反乱軍の銃弾に倒れる兵士の瞬間をとらえた写真である。
撮影者の名はロバート・キャパ、当時22歳の無名のカメラマンを一躍有名にしたこの写真には長年に渡り真贋論争が続けられてきた。
著者沢木耕太郎にとってキャパは特別な存在であったのではないだろうか。リチャード・ウィーランの一連のキャパ評伝の翻訳を彼が行っていることを考えても真贋論争に自分が決着をつける。というような責務に似たような感情もあったと思えるし、何より真実を知りたいというノンフィクション作家としての興味が掻き立てられたこともあるだろう。
検証がはじまる。真実にどれだけ近づくことができるか、そこに至るまでの調査はまるで緻密に練られたミステリー小説のトリックを暴く探偵のようである。本書の醍醐味はまさにそこにある。
キャパはあの写真の多くを語らなかった。つまり真実を隠したのだ。なぜ?そこに、写真家キャパという人間が透けて見えてくる。ユダヤ人であったキャパは当時ヨーロッパに広がりつつあった迫害の波に翻弄される。祖国を逃れファシズムと戦おうとしていたのだ。カメラという武器を持って。そして彼は、その戦いの同志ともいえる最愛のパートナーと出会う。ゲルタ・タローである。彼女と共に始めた戦いは、彼女の戦場での死で幕を閉じる。「崩れ落ちる兵士」発表の直前である。
写真の嘘は彼自身の嘘を離れ大きな十字架となって彼に背負われることになる。彼自身のみが背負う真実が彼を「本当の戦場」に向かわせる。そして彼は「もっとも偉大な戦場カメラマン」となるのである。
唸るしかない著者の緻密な検証の積み重ね、写真界におけるタブーに向き合う覚悟に「キャパ愛」を感じずにはいられない作品である。
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本 キャパの十字架 |
| 著者 | 沢木耕太郎/著 |
| 出版社 | 文藝春秋 |
| ISBNコード | 9784167905163 |
| 価格 | 799円 |
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