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今月のOh!ススメ本

静岡本店 「島原」のOh!ススメ本

  • 2019年03月のオススメ本
  • 不思議の国の少女たち
  • ショーニン・マグワイア/著 原島文世/訳
  • 価格/907円
静岡本店
島原
 「不思議の国のアリス」たちのその後を描く傑作ファンタジー。
帯の煽り文句に大いに煽られて手に取った。ファンタジーの世界から「私たちの世界」の住人となった主人公は、その後どう生きるのか。思い浮かべたのは、昨年に映画公開された『プーと大人になった僕』のクリストファー・ロビンや、40歳となったピーター・パンが再びネバーランドで活躍する『フック』など。子どもの頃の魔法が今も有効なことに励まされ、それでも主人公は「私たちの世界」で生きることを選択する。

 これらの作品と本作との違いは、登場人物たちの多くが異世界から戻りたての少年少女で、異世界へ「帰る」ことを切望しているという点だ。舞台は、少年少女たちが現実世界との折り合いをつけるための寄宿学校で、そこでは異世界は大きく4つに分類されている。ナンセンス、ロジック、邪悪さ(ウィキッドネス)、高潔さ(ヴァーチュー)などを土台に、高詩韻(ライム)、高直線性(リニアティ)などなど、無数の評価軸が存在していて面白い。例えば、不思議の国のアリスのような理屈の通らない世界は高ナンセンス、というわけだ。

 主人公のナンシーは死者の国から帰ってきたばかりで、娘の話や価値観の変化に戸惑う両親によって転入することとなった。他の多くの同級生と同じく彼女もまた、自分が行った世界こそが自分がいるべき世界であり、故郷であり、いつかはきっと帰れると信じている。しかし、ナンシーの相部屋の少女が殺され、更には被害者の体の一部が持ち去られる連続殺人事件となったことから、物語は陰惨な雰囲気を帯びていく。何のための殺人なのか、そしてナンシーは死者の国へ帰ることができるのか? ファンタジーにしては異世界はナンシーたちの会話の中にしか出てこないし、ミステリーにしては謎解きが目的ではない。ではこの物語が目指しているところは何か。それはもちろん、「自分の国」へ帰ることである。

 原題の「Every Heart a Doorway」は、「あらゆる心は出入り口」とでも訳すのだろうか。異世界へ行くには、扉が開かれることが条件である。自身の心から開かれた世界ならば、そこがありのままの自分でいられる故郷だと強く希求するのも当然だろう。また扉は、各人に一番適した世界へと導いてくれるという作中の説明にも納得がいく。一方で、二度と戻りたくないという人物がいることにも頷ける。これは自分を求める物語、自分の居場所を見つける物語なのだ。だからこそ、登場人物は思春期の少年少女でなくてはならない。なぜなら…古ぼけたトランクを開くと、下へと続く階段があったとしよう。どれだけの大人が、迷わず下りることができる? そもそも願ったとして、扉を見つけられるだろうか? 希望を捨てることなかれ。寄宿学校の責任者は老齢の女性だが、彼女の扉は現在も開かれている。年齢に限らず人の数だけ異世界があり、この物語は、あらゆる世界(=個性)を承認しているということなのだろう。まさに「みんなちがって、みんないい」だ。

 ちなみに、本作にアリス本人は出てこないのでご了承を。
不思議の国の少女たち
著者ショーニン・マグワイア/著 原島文世/訳
出版社東京創元社
ISBNコード9784488567026
価格907円
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