静岡本店 「鍋倉」のOh!ススメ本

ディス・イズ・ザ・デイ
2018年12月のオススメ本
ディス・イズ・ザ・デイ
津村記久子/著
価格/1728円
 この物語は最終節を迎えた架空のJ2の22チーム(エンブレムまでちゃんと用意されている)を応援する人々を描いた11話+αからなる短編集。
 (同じ選手をずっと応援してきたのに、その選手の移籍を機に、今までのチームを応援する兄と、選手と新しいチームを応援する弟で、口も利かなくなってしまう兄弟「篠村兄弟の恩籠」、家族でずっと同じチームの応援をしてきたが、長男が一緒に試合を観に行かなくなった。「若松家ダービー」など)
 最終節を迎えて、思い思いの形で自分のチームを応援する人たち、かつての自分、選手時代に応援していた監督、突然姿を消した恋人、亡くなった夫、今観ているのはサッカーの試合でも、その人自身がスタジアムにいても、職場や家庭やいろんな人や場所に思いをはせて、フィールドを見守っている。
 この物語の登場人物たちのように、私たちも普段ああだ、こうだと心の中で、無数の言葉を発して生きている。とっさに、無意識に、無数の言葉が私たちの中で生まれている。けれどもそれは数分経てば消えてしまうものも多く、1日を振り返ってみても、心に残っているものはほんの一握りだ。声に発するわけもなく誰かに言うわけもなく、ひっそりとその役目を終えていく、言葉にはならなかった言葉たち。言うなれば私たちは、つむじからつま先まで、心の中のそんな言葉でぎっしりと詰まっているようなものだ。その場では、形になっていなくて、役には立たないようでも、自分や誰かをどこかで支える部分(当て木)になっている。
 この本だけでなく他の本でも、津村記久子さんの作品の魅力は、そういった言葉たちやとっさに出てくる気持ちをぎゅっと包むように描かれているところだ。たくさんの作品の中で、そういった言葉たちを拾い集めながら、ひとの何気ない言動を見逃さないようにしっかりと表現してくれている。誰にも見せなかった部分を見られていたような恥ずかしさも覚えるけれど、それと同時に大きな安心感にも包まれる。
 この物語の最後の章では、今まで登場した人すべての「その後」が、短編よりもさらに短い長さで描かれている。サッカーの試合のアディショナルタイムのように、そこにも、そこにだからこその「瞬間」がある。「言葉」がある。「ドラマ」がある。それをぜひ体験してほしいと思う。
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