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江尻台店 「杉山」のOh!ススメ本

  • 2016年06月のオススメ本
  • 血盟団事件
  • 中島岳志/著
  • 価格/994円
江尻台店
杉山
本書の表題「血盟団事件」は昭和7年、日蓮主義者の運動家、井上日召に心酔した青年達が「一人一殺」の信念を下に当時の政治経済界の指導者の暗殺を企て、その一部を決行した連続テロの総称で、後に続く五・一五事件(同年5月)、二・二六事件(昭和11)の発端として昭和初期の右翼運動史の重要事件として位置づけがなされている。もっとも、こうした事件やそれを支える思想や心情が、ある日を境に突発的に沸き起こる筈は無く、著者はそこに至るまでの経緯を丁寧に追い、第一級のノンフィクションに仕上げた。
そもそも、日蓮主義と国体論が同一線上に結ばれるメカニズムは現代の我々には理解し難いものがある。井上日召に限らず、国柱会の田中智学はその着想の元祖とも呼べるし、もう少し言えば、戦前日本は日蓮ブームであった。この辺りは島田裕巳著「八紘一宇」(幻冬舎)に詳しいが、本書に於いても、お題目を唱え続ければ、いずれ天皇の大御心と天皇の赤子たる一般国民が一つに集うであろう、法華経を元としたユートピア構想が詳細に解説されており、その国家観にはついつい引きずり込まれてしまう迫力がある。
つまり血盟団は政治的な結社というよりも、まずは強烈なスピリチュアリズムを内包した宗教集団であることが理解の前提としてある。同年3月。団琢磨(三井財閥総帥)暗殺の実行者、菱沼五郎はこの公判のなかで自身の行いを「神秘的な暗殺だった」と説明。目的を果たした瞬間、はじめて自分の存在を認め、団を認めた、と。自己と他者が宇宙と一体化する恍惚。
不心得かもしれないが、その言葉の中に暗に拭い難い魅力を感じとってしまうのは、日本人たるナショナリズムの根本には、抗えない全体主義への誘惑が潜んでいるからだろう。
この理由について著書は別著「愛国と信仰の構造」(集英社)の中で近代国家の始まりとされる明治維新時に、どういった類のナショナリズムと宗教の装置が、どのような方法でインストールされたのかを文明的な視野から改めて分析し直す必要がある、と問題提起をしている。
格差の拡大、認証欲求、排外主義、政治不信、神社ブーム、カリスマ政治家への懐古。本屋の店頭には呆れるほどの今がある。戦後レジームの解体とは言うものの、不意にケツ持ちのアメリカが撤退した時、我々はその不安に耐えられるだろうか?そしてどのような選択をしてゆくだろうか?
それぞれの時代において、社会を支配する「空気」(by 山本七平)は著しく異なっており、後の時代にそれを推し量るのは容易ではない。だからこそ、血盟団の時代と現代を合わせ鏡のようにして、今はどうなのか?を問い続ける意味がある。本書はそのツールとして最適である。我々の今を俯瞰するための未来の名著。
政治学者、中島岳志の代表作と断言しても差し支えないだろう。
血盟団事件
著者中島岳志/著
出版社文藝春秋
ISBNコード9784167906207
価格994円
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